藤崎慎吾「鯨の王」

大好きな海洋SFで久しぶりの作品。

ベルヌ「海底2万マイル」
クラーク「海底牧場」など、作品はあまり多くない。
最近ではドイツのフランク・シェッツィング著
「深海のYrr」が久々のヒット。そのスケール、環境問題を
含む最新の海洋・深海事情、魅力的な登場人物という点でも
群を抜いていた。

藤崎慎吾の前回の海洋SF作品「ハイドゥナン」は、深海探査、
海底遺跡地殻変動などのサイエンスと南西諸島の神話や
共感覚まで、さまざまなテーマが出てくる意欲作だった。
ちょっと物足りなかったのは「未知の巨大生物」が出て
こなかったこと。巨大海蛇や巨大イカとの遭遇は海洋SFの
楽しみのひとつだと言ってもいい。

今回は「鯨の王」なので巨大クジラが出てくる物語。
米国の最新の原潜が航行中、何者かに襲われ、多くの乗組員が
不審な死を遂げる。ちょうどその頃、鯨の研究者須藤は、
深海で巨大な鯨の骨格を発見する…。

謎の巨大鯨をめぐって軍、資源開発企業、バイオ企業、
テロリストまでが登場する海洋冒険活劇。

お目当ての鯨はなかなか魅力的だ。
深海に潜み、30mのシロナガスクジラを大幅に超える全長。
あらゆる波長の音を自由に操れる、白い巨鯨。
廃棄物による海洋汚染に怒った鯨がついに人類を攻撃
しはじめた。

ストーリーに驚きはなく、展開もほぼ予想通り。
しかし新種の鯨や深海の描写は、迫力があり、
海洋ものファンにはたまらない魅力がある。

個人的希望を言えば、人類と鯨の闘いが終息した後、
異種間コミュニケーションが成立するような世界を
もう少し表現してほしかった。